シングルファミリーの強い味方

インタビュー

「娘の居心地の良さ」から誕生した新たな保育システム

地域の顔馴染みこそ子どもの安心の場

 親が仕事など自分のやりたいことに安心して打ち込めて、かつ子どもも快適に過ごせる子育てを主軸にした地域でのコミュニティをつくりたい。そんな思いを込めて、2009年「AsMama」を設立しました。
 きっかけは、当時3歳だった娘です。私は、結婚・出産してからも、ある企業で働き続け、仕事にも情熱を注いでいました。残業や休日出勤で娘を保育園に預けられないときは、キッズ・シッターさんを厳選して依頼。でも、ある日、娘が「知らない人がお家に来たり、知らない人のお家に行ったりするのは、怖い」と、訴えてきたんです。その一方で、娘のお友達のママに預かってもらうと、お迎え時に 「まだ帰りたくない!」と駄々をこねる。
 よくよく考えれば、普段「知らない人に付いて行くとか、ものをもらうのはダメ」と注意されているのに、知らない人と過ごし、食事も与えてもらうのは、娘にとっては大きな矛盾です。娘の居心地の良い場所は、やはり顔馴染みの方の家なんだなぁと痛感しました。
 それから、経済的な理由から、やむにやまれず小さな子どもをひとりで留守番させて仕事に向かう方も少なくないと耳にして……その間、親も子どももどれほど不安かを想像すると、やはり気軽に信頼を持てる方に子どもを預けられる関係性が必要不可欠だ、と。
 現在、 「AsMama」の業務の柱は3つです。ひとつは、さまざまな子育て支援を提供していながら住民に行き渡らず頭を悩ませている自治体と、住民との関係づくり。また、やはり子育てに関する有意義な取り組みをしているのに消費者に届かず困っている企業と、消費者の関係づくり。それから、地域住民同士、子育てを頼り合うコミュニティづくり。簡単に言えば、社会全体で子ども達を育てていくための橋渡しをしているんです。
 まず、地元での交流イベントの開催、 SNSでの子育て情報の発信、もちろん保育園や幼稚園の送迎や託児も担う地域のコミュニティづくりのリーダー 「認定サポーター」を育成して、全国に約1000人を配置しています。約4割が保育士などの有資格者で、30~40代の女性を中心にシングルファザーも活躍、老若男女が揃っているんですよ。
 送迎や託児のご利用者は、約7万人いらっしゃいます。
「AsMama」のポリシーのひとつは、利用者からお金を一切頂かないこと。万が一事故を起こしたときなどの保険を適用しているほか、登録料・手数料も無料です。
 ただ、子どもの安全を第一に考えて、登録申し込みの記入事項はかなり多め。かかりつけの病院、排泄やアレルギー状況など、約70項目あります。
 また、親子ともども顔見知りの人としかつながらない認証システムを導入したのもポイントではないでしょうか。
 ママ友同士のLINEグループふうに、「夜間、子どもを預かって」と発信すると全員に行き渡り、
「そんな時間まで外出なんて不謹慎」などの中傷が起こる場合もあるので、そうした形態は避けたい。よしなにしてくれる人たちだけに発信できるよう、「認定サポーター」と交流したり、できる限り信頼できるママ友などを招待してから登録する形をとりました。
 

預かる側からも喜びの声預ける罪悪感はいらない

 子どもを預かった方へのお礼は、一応、1時間500円とルール付けています。が、それはあくまでも目安で、お互い折り合いをつければいくらでもOK。
 例えば、「週2回のお泊りで、1カ月1万円でいい? その代わりパート先のお惣菜の余り、持って帰れるから」でもいいんです。もっと言えば、大概の託児施設が掲げる 「障害を持つ子どもはNG」といった制約もない。預ける側と預かる側が、了承すればそれでよし、です。
 この仕組みで潤うのは、子どもを預ける側だけではありません。預かる側からも喜びの声をたくさんいただいています。「子ども同士で遊んでいてくれて、とても楽」。「3時間預かったお礼・1500円で、ランチして寛げた」。「幼い子どもがたくさんいるシングルマザー。働きに出られず生活保護を受けてきたけど、私にも何か貢献できるんだと自信が持てた」。「ひとり暮らしの老人で寂しい中、子どもと触れ合えるのが生きがいに」。
 つまり、預ける側・預かる側、相乗効果がある。だから、預ける側は、遠慮する必要がないんです。大変な子育てを、決してひとりで背負い過ぎないで欲しい。シングルマザーなら、彼とふたりきりのデートを満喫したっていいじゃないですか?心を許せる家でお留守番するのなら、子どもだって負担はない。罪悪感など覚えなくていいんです。
 最近では、経済格差を地域内で少しでも解決するために、ものの貸し借りや、子ども服などの譲り合いの仕組みもつくりました。頼り合い、支え合い、みんなの力で子どもを見守る。そこに結びつくことに、これからもチャレンジし続けます。
 

Profile

甲田恵子
(株)AsMama 代表取締役社長 CEO
(社)シェアリングエコノミー協会 理事
総務省 地域情報化アドバイザー

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